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アーツアライブは、アートが全ての人々の生活の一部となるように、
アートを通して人々に喜びと生きる活力を与えます。

Dental Diamond 2009年(平成21年)4月号

[ Dd遊学散歩インタビュー ]


医療・福祉の現場に生きたアートを!

個性を引き出すアートの力で、人も社会もいきいきと!


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基調講演「アートと医療福祉:アートマネージメントの視点より」
■医療・福祉の現場に息づくアート
■アート・プロジェクトで元気になる
■さまざまな対話を生み出すアート
■アートは「社会の毛細血管」!




■医療・福祉の現場に息づくアート
●NPO法人「アーツ・アライブ」では、どのような活動をされていますか。
林:アーツ・アライブは美術や音楽などのアートによって、医療や福祉の現場を元気にすることを目的としています。アート・プロジェクトを希望する病院や老人施設があると、そこに作家が訪問または滞在し、入居者の方々と生活をともにしながら、その場所に適した作品の制作やワークショップを行います。
はじめは施設の方も、作家が何をするのか疑心暗鬼なのですが、彼ら・彼女らがすぐに入居者と自然なコミュニケーションをとることにまず驚きます。そして、似顔絵を描きながら会話をして仲よくなるなかで、入居者は元気づけられていきます。一連の制作活動を共有することで、病院の環境や施設で働いている方の気持ちも変わっていきます。その結果、アート・プロジェクトは施設の方にも好意的に受け入れられてきました。
● 活動のきっかけは何ですか。
林:これまでパブリックアートの研究をするなかで、日本の社会でアートをいかに活かせるかを研究し実践してきました。
その一環で、1999年にイギリスで開催された「Arts for Health(健康のための芸術)」という国際シンポジウムに参加しました。そのプログラムでは、病院などの医療現場だけでなく、公衆衛生学や予防医学までもが包括されていました。
また、ロンドンとバーミンガムにある最先端の医療現場も視察しましたが、すばらしかったです。チェルシー地区の国立病院では、ショッピングモールのような建物に現代アートがたくさん飾られ、コンサートや展覧会などの多様な活動が行われており、近隣の人がお茶を飲みに来ていました。「地域に開かれた病院」の姿がそこにはあったのです。 その経験を踏まえて、最初に一緒に参加した湖山泰成氏が運営する静岡県の特別養護老人ホームなどで、美大生や若手の作家とアート・プロジェクトを行ってきました。その活動が場所・数ともに拡充し、10年間続いたところで、さらにアートを医療や福祉の現場に広めていこうと決心したのです。今年、「アーツ・アライブ」はNPO法人格を取得しました。

■アート・プロジェクトで元気になる
● 実際に、どのようなアート・プロジェクトを行ってこられたのですか。
林:たとえば、「障子絵のプロジェクト」では、入居者のお話を聞いて障子に和紙の切り絵を施しました。殺伐とした個室にある真白な障子をキャンバスにみたてて、美大生は入居者の想いを絵にしていきました。「村祭りが楽しかった。そこにいまの私を入れてほしい」と言われて、村祭りの光景のなかにその方を描くと、たいへん喜ばれました。次第にテレビを見るのをやめて、自分の絵を眺めるようになった方もいます。このようなプロセスは回想法といって、認知症の進行を止め、記憶を呼び起こすことにも繋がるそうです。 「季節を感じるアート」では、入居者と学生が一緒になって作品をつくりました。農家でにんじんをつくっていた人が、作家と一緒にプラスチック粘土でにんじんをつくったのです。介護する人と入居者は対等な関係になりにくいのですが、作家と入居者は対等な関係で共同作業を行うことができます。その方が亡くなったとき、「肌身離さず持っていたにんじんをお棺に入れさせてもらった。作品を燃やして申し訳なかった」というお話を聞いたときは、私たちも作家も感動しました。その方は、一緒につくったにんじんをとても大切にしてくれていたのです。
また、「遊べるクッション」では、作家が+と−のホックがランダムに付いた多様な形の無地のクッションをつくり、「好きな形を選んで、好きな絵を描いてください」と入居者に言うと、カラフルなクッションができました。それらを組み合わせて遊べるように、施設に来る幼稚園児にお礼としてプレゼントしたところ、とても喜ばれました。施設の入居者は日ごろ「ありがとう」と言うことはあっても、その反対に言われることはあまりありません。クッションのおかげで、入居者が「ありがとう」と言われる機会ができ、幼稚園児との間に等身大の関係が生まれました。
● アートは人の個性を引き出すのですね。
林:入居者が施設に入ると、集団の一員として扱われます。画一的な部屋で食事時間も決まっていて、個性がないのです。ですから、入居者の個性を引き出すこと、あるいは個人に対するアテンションが必要となります。アートによって個性を引き出しながら共同制作をすれば、世代間のコミュニケーションも生まれます。いろいろなことを想像すると脳もよい刺激を受けますし、一緒につくったという思い出は心を温めてくれます。そして、何よりも、自分が楽しかったり、大切に思う瞬間が再現されると、人は元気づけられるのです。
病気や加齢とともに不自由になると、人は生きる自信を失いがちです。しかし、アートに触れることで、一人ひとりが生きている価値を見直し、人間としての尊厳を取り戻すことができます。その意味では、アートの最大の目的は「エンパワーメント(Empowerment)」であるといえるでしょう。意欲や関心という潜在的な力を引き出すことで、力のない人たちに力を与えることができるのですから。

■さまざまな対話を生み出すアート
● アートにはどのような楽しみ方がありますか。
林:アートはいろいろな見方があることを教えてくれると同時に、人と人を繋げる力があります。よい作品があると元気づけられて、自然に近くの人とコミュニケーションが始まります。時間をかけてアートと向き合っていると、自分自身のなかでいろいろな発見があります。また、「人が思うことと自分が思うことは違う」と気づくこともあります。 そして、「人はみんな違うけれど、同じものに感動することができる。コミュニティを築いていける」という希望が生まれ、人間らしい環境を取り戻すことができます。「モノを所有する/しない」、「能力がある/ない」、「仕事ができる/できない」といった見方に支配されるのではなく、そのような違いがあるからこそ人間のコミュニティはすばらしいと思えるようになるのです。
日本は公共空間での企業活動に対して寛容なので、私たちの生活空間は商業的な宣伝に取り囲まれています。看板やディスプレイは「モノを買わせよう」という欲望を刺激する映像で溢れ、人を知らず知らずのうちに疲れさせます。そのような社会では、個々の人間の小さな声は押しつぶされています。アート活動をとおして、その小さな声を呼び起こすことが大切なのです。
● アートは他人への思いやりも育んでくれるのですね。
林:他人の気持ちをわかるには、「想像力(Imagination)」が必要です。アートに親しんで「創造性(Creativity)」が高まると、想像力が強くなります。文化、宗教、年齢の違いを超えて一緒に生きていくには、お互いを思いやることが大切です。経済や法律ばかりを重視してきたため、いまの日本はそれが欠けた社会になっているのではないでしょうか。
ヨーロッパやアメリカではアートは生活の一部になっていますが、日本での生活にはアートとの接点がありません。日本人もこれからは、生きたアートに接することが大切になってくると思います。工場の量産品と作家の作品とでは、込められた想いの強さが違います。オフィスなどにアートを取り入れるだけでも、その魅力に気づくと思います。 また、アメリカやイギリスのアート教育には、一般の社会から外れてしまった人たちを呼び戻すソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)の役割が期待されつつあります。貧しい人たちが貧しいままだと、生活保護や犯罪が増えます。しかし、彼らの創造性を刺激することで、生きる力を取り戻すことができます。つまり、国家が発展するには、アートが必要だと考えられているのです。

■アートは「社会の毛細血管」!
● 今後、どのような展開を考えられていますか。
林:アートはいま、地域起こしにも活用されています。シャッター通りになった商店街に作品を展示すると、それを見に多くの人がやって来て、新しいコミュニティが生まれます。アートというプラス・アルファがあることで、人はそれを見たくなるし、楽しくなるし、よい影響を受けることもできるのです。
このように、一つひとつの生きたアートが、小さな変化を呼び起こすことができるのです。
その意味で、アートは「社会の毛細血管」なのだと思います。動脈などのような幹線でなくても、すべてに繋がっていて、すみずみまで行き届きます。私たちの身体と同様に、社会にも温もりが必要なのです。そのためにも、医療や福祉の現場にアート作品やアート・プロジェクトを紹介していきたいと思います。
絵画は高いというイメージがありますが、それほど高くありません。財産と考える必要はなく、家具のように気楽に変えていけばよいのです。美術史上の評価よりも、作品を見て楽しいか、元気づけられるかということが、医療や福祉の現場では大切だと思います。
● 歯科医院にはどのようなアートがよいのでしょうか?
林:待合室にいろいろなデザイナーズチェアーを置くだけでも、待ち時間が短く感じられるかもしれませんし、痛みが和らぐかもしれません。絵や音楽といった美しいものには癒し効果がありますし、絵がときどき変わるだけでも会話の幅は広がります。歯に痛みをもった人が画一的な環境にいると、そのことばかり考えてしまいます。むし歯の治療説明や治療機器の音しかないという空間が、歯科医院のマイナスイメージをつくっているのかもしれません。「歯を治そう」とか「タバコをやめよう」といったポスターは、見るのもつらいのではないでしょうか。
現代アートにはユニークなものが多いのですが、歯や口を独特の視点で撮ったビデオ作品を映すだけでも、歯の痛みを忘れさせてくれるでしょう。また、完全にできあがった作品ではなくて、後から患者さんが手を加えられるような参加型の作品も面白いと思います。
歯科医院には繊細な道具がたくさんあるため、作家を呼んでワークショプをして、そこに患者さんを誘うのもよいですね。歯科医師の先生も患者さんもアートに関しては素人なのですから、「先生と患者」という固定された人間関係を取り払って、「人と人」という対等な関係をつくることができるでしょう。
歯科医師の先生が身を削って医療活動をするように、作家は命をかけて作品をつくっています。作家の作品を見るだけでなく、作家の話を聞くのもよい経験になると思います。
●生きたアートが身近にあると、新鮮な気分で毎日を過ごせそうですね。ありがとうございました。


by artsalive | 2009-04-22 11:42 | プレス