ライトアップ我が家
2002年 08月 30日
2002年8月22日~30日 ききょうの里
作品名: | ライトアップ我が家 |
製作者: | 川口大輔 |
実地場所: | ききょうの里 |
実地期間: | 2002/08/22-30 |
■作品説明
「ライトアップ我が家」と題し、記憶をキーワードに昔風の家屋の模型を利用者の方々と共に作っていった。
■プロジェクト後の感想
3階の痴呆のある利用者の方々と、ワークショップを行うのは難しいと言われていた。しかし、最初の日にライトボックスを初めて点灯した時に、光が透過したマーカーで塗られた緑色を「わぁーきれい」とそのまわりにいた人たちが、声をあげた。それを聞いて私がその色をきれいだと思っているのと同じ感覚で、そこにいた人たちも「きれい」と感じていると思い、これならば、ワークショップはできると確信した。意思の疎通がどうかということよりも、何かを見て何かを感じる、そしてそれをなんらかの反応として表す。そのことの方が、美術においては大切だと思うからだ。 普段、安全面での理由からほとんど私物を持たないで生活をしている3階の利用者の方々にとって、ライトボックスや様々な素材を用いた模型作りなどは、かなり異様なものとして見えただろうと思う。最初の方ではかなりとまどいもあるようだった。しかし気長にゆったりと待っていると突然その人の表現する本能が顔を出す一瞬がやってくる。痴呆のある人は、自分が何をしたか忘れてしまう、しかし表現の痕跡は残る。自分が作ったものをまるでその時初めて見たものかのように見る、その目を私はうらやましく思った。
メインの模型作りは、利用者の方々にどんな家がいいだろうかと話を聞きながら進めていった。当初の私のコンセプトは家を作り、それをライトボックスの上に浮かび上がらせることで利用者の方々に、家にまつわる記憶を掘り起こしてもらおうというものであった。私がイメージした“昔風の家”にいろいろな人の“家”“懐かしさ”といったイメージが混ざりあい、誰かの家のようでもないという不思議なものが日を追うにつれて出来上がっていくのだった。
お年寄りと何かを作ると、そのプロセスでおこる意思の不通、勘違い、うっかりが思わぬ作品を生む、それが醍醐味だと思う。そういった意味で言えば今回ききょうの郷の3階は、うっかりの宝庫であった。美術の学校の授業のようなことをしようとすれば、たしかに難しいかもしれない、しかし、個々の能力、性格などにあわせたアプローチをしていければとてもユニークなものがうまれる場所であるといえる。